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2022.03.09 鈴木 一之

物事にはなんでも二面性がある

人は誰でもふたつの顔を持っています。表の顔と裏の顔、昼の顔と夜の顔。私の好きな大藪春彦のハードボイルド「蘇える金狼」でも、主人公の朝倉哲也は実直なサラリーマンと危険なアウトローの二つの顔を持っていました。

人の顔だけではなく、世の中はすべてこのような2面性で成り立っています。まったくの個人的な見方ですが、今回の世界的な株価下落は、きっかけこそロシアによるウクライナへの軍事侵攻だったかもしれませんが、それはひょっとしたらひとつの要素ということなのかもしれません。本当の理由は「世界経済の鈍化、景気後退」なのではないでしょうか。

ロシアの非人道的な行為は絶対に許されるものではありません。許すべきでもありません。歴史の大きな転換点に立っているのは疑いの余地はありません。しかしそれが株価の大幅な下落につながった本質ではなく、より真相に近いところにあるのはコロナ後の世界経済の回復が鈍ってきてる点ではないかと思います。

世界経済(および日本経済)のピークは2021年5月ごろだったような状況です。日経平均の高値はその3か月前の2021年2月。バイデン大統領が誕生して、大盤振舞いの財政支出を立て続けに講じて、マーケットが好感した時につけた「日経平均、30年ぶりの3万円乗せ」の時期です。

昨年5月にコロナ感染の第3波が始まり、当時の日本はようやくワクチン接種の準備を始めたところでした。人流が止まり景気が下向きになって、上場企業もなかなか通期の業績見通しが出せないという時期です。この時のが日本および世界経済のいったんのピークだったような後講釈が成り立ちます。コロナ禍の景気対策で伸びた鉱工業生産も、半導体不足が明らかになり、この頃から回復が鈍くなりました。

マザーズ市場はその前の年(2020年)の10月に高値をつけました。以来、2021年を通じてマザーズ市場は下げ続けることとなりました。これも振り返れば景気の鈍化、景気の後退期入りによってもたらされたところがあります。

もし2021年5月が景気のピークだとしたら、すでに10か月近くが経過していることとなります。そうだとすると今度は反対に、そろそろ景気の底入れの時期を探るタイミングとなります。ウクライナ情勢の悪化によって世界中のエコノミストが景気後退を示唆するという現象は、景気観測からすれば非常に重要です。逆説ながら底入れが近い可能性があります。

日本では「リーマン・ショック」と呼ばれる百年に一度の「金融・経済危機」は、大手投資銀行のリーマン・ブラザーズの経営破綻が象徴的ですが、それが世界の危機を引き起こしたわけではありません。リーマン破綻はあくまで結果であって、現にリーマン・ブラザーズの破綻は一連の大きなうねりの一番最後に起こった出来事として知られています。

本質は目に見えていない部分にこそ物事の本質がひそんでいます。非人道的なロシアによるウクライナ侵攻は、相場の上では本質ではなく、より本質には景気の後退が一足先に始まっていたことではないかと思うのです。

そうだとすれば、日柄的にはあと少しでボトムに達するはずです。あるいはもうすでに底入れしている部分もあるかもしれません。ここからの景気敏感株の動きがますます重要なものになってくるはずです。
(スズカズ)