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2022.02.17 中嶋 健吉

ROEの功罪

日経平均のROEは現在9%前後で、ほぼリーマンショック前の水準に戻っています。 ショック後の2009年3月には0.6%まで下落しており、リーマン前を目標にした経営がなされたのでしょう。 ROEが経営の指針として日本で広く意識され始めたのは、2014年8月6日に発表された「伊藤レポート」からだと言われています。  曰く「ROEを経営の現場に指標として落とし込み、中長期的にROEの向上を目指す高いモチベーションを引き出す」としています。 特にグローバル投資家との対話では、8%を上回るROEを最低ラインとしたいと、数値目標も提示しています。

更に物言う株主の登場は、ROEの向上を経営に迫ります。 その早急な改善にはコスト、費用の削減が効果的として、研究開発費を減らし、人件費を抑えることが経営手法として必ずしも否定されなくなったのです。 こうした「人件費はコスト」の考えはデフレ経済の深まりもあり、結局日本の平均年収は過去30年間横バイを続けることになります(OECD調べ購買力平価実質ベース)。

研究開発費も大きく削られます。
研究開発費の伸び 2000年―2019年 (文部科学省調べ)
米国・ドイツ     + 70%
韓国         + 4.5倍
中国         + 12.9倍
日本         + 30% 

切り詰めた研究開発費が、新商品開発競争で日本企業が世界の競合に劣後する原因になっていると言えます。

こうした経営姿勢に対し、ESGの広まりは企業財務にも大きな変革を求めます。 非財務に括れていた人件費を、見える化する試みです。 具体的には、人は企業の資産だから人件費も単なる支出ではなく、企業価値の向上に繋がる投資の一つであるとの考え方です。 人件費はコストとして切り詰めるのではなく、企業価値を高め、結果としてROEの向上に繋がるとの考えです。 今まで人件費とROEの関係に、何か釈然としないものを感じていましたが、一つの解答を得た感じがします。