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2022.01.27 中嶋 健吉

右腕それとも後継者

日本電産が揺れている。日産副社長だった関閏氏を三顧の礼で迎え、2021年4月にはCEOを任せたのですが、経営手腕への不満から創業者でカリスマ経営者の永守氏が、公然と批判的な発言を口にする様になったのです。 

日本電産は1973年に永守氏が自宅のプレハブ小屋で創業、モーター事業を柱に66回以上のM&Aを通じ業容を拡大、2030年に悲願の売上高10兆円の目標を関氏に託したと言われています。業容の拡大から永守氏一人では経営に目が行き届かない為、これまでもシャープで社長を務めた片山氏、関氏と同じ日産出身の吉本氏など後継者含みで迎えたのですが、いずれも旨くいかず会社を去っています

永守氏は決断した66回のM&Aでは、業績が悪化していた企業であっても人員を削減することなく、全て成功させています。その秘訣は被買収企業に自ら乗り込み、経営方針,哲学を披露するだけではなく、雇用を守ることをトップとして従業員に約束し不安を解消するなど、そのカリスマ性を遺憾なく発揮する点にあります。永守イズムを企業文化として根付かせていくのです。こうした企業に、たとえ他の企業で実績を挙げた経営者が乗り込んでも、創業経営者が現役で依然経営に関与している限り、その独自性を発揮することは難しくなります。永守氏は自分の右腕になる人材を求めたのではなく、あくまで後継者を求めていたので、結局評価軸は短期的に業績を挙げたか否かになります。永守氏はこの点で不満があったのでしょう。

戦後の日本を代表するカリスマ経営者には必ず右腕(参謀)になるパートナーがいたと言われます。松下幸之助氏には高橋荒太郎氏、ソニーの盛田昭夫氏には井深大氏,ホンダの本田宗一郎氏には藤沢武夫氏などが有名です。京セラの稲森氏にも創業時からの側近が支えていると言われます。つまり草創期から苦労を分かち合い、お互いの足りない部分を補い合うパートナーの存在です。そして後継者は内部から選んでいます。カリスマ経営者の創りあげた企業文化の継承です。企業文化の維持と業容拡大を求められる、カリスマが一代で築き上げた企業の後継者の難しさを日本電産の一件は示しているのです。

(中嶋)